10/6/2018 Live Report @Silver Back

『岩田桃楠 1st Live』

2018年10月6日@横浜 Silver Back

今夏〜秋は本当に台風が多く、10月に入ってからもグズグズした天気が続いていたが、この日はちょっと汗ばむくらいの快晴。桃楠、記念すべき初ライブはお天気にも恵まれ、気持ちの良い秋晴れである。会場の関内Silver Backは、ふだんはロックやレゲエのライブがメインのいわゆるライブハウス。カート・コバーンやジミ・ヘンドリックスの絵が飾られた階段を地下に降りていくと、そこは隠れ家のようなアメリカンダイナー。この日のチケットは発売から約2週間でソールドアウトとなったが、開演時間の18時になる前にテーブルやカウンター席はほぼ満席となった。

拍手に迎えられて、いよいよステージに彼が登場。「本日はお集まりいただき、ありがとうございます。津軽三味線の岩田桃楠と申します。短い間ですが、ゆっくりとお楽しみください。まずは「津軽じょんから節」お聴きください」と挨拶すると、1曲目の演奏がスタートした。気合いを込めて第一音。糸巻を握りながら、三味線と会話をするように調子を合わせていく。そしてイントロからの「ハッ」と腹から一声。これを合図に会場の空気がピンと張り詰め、気持ちの良い緊張感に包まれる。徐々にスピードを上げていく熱のこもった速弾きに、自然と拍手が沸き起こるが、こういう自由なテンポ感は独演ならでは。1曲の中にも山あり谷ありで、観客を引き込んでいく流れ作りはさすがだ。

弾き終わると、改めて挨拶と自己紹介。現在、東京藝術大学で勉強しながら演奏活動を続けているが、ソロライブはこれが人生で初めてであること。自分が本当にやりたい事を1時間に詰め込んで、それをようやく形にできる日が来てワクワクしていること。そして、三味線という楽器の種類や歴史などを簡単に解説した後、今回の“三味線Tokyo”というプロジェクトに込めた思いを語った。「日本の楽器=伝統、古いイメージっていうのがあると思うんですけど、僕はまだ津軽三味線を伝統というだけに収めるのは早いんじゃないかと思っていて。“三味線Tokyo”という名前で、また新たな三味線の良さを広めていけたらなと思っています」。

2、3曲目は「田名部おしまこ節」と「三下り」を続けて。単音を連続して弾くだけなのに、エフェクターでもかけているかのようにトーンが変化する。ハイポジションでのテンション感あふれるフレーズや、ウチやハジキを使った多彩なメロディーなど、弦が3本しかないというのに驚きの表現力だ。また、開放弦の音が混ざると、どこかエスニックな雰囲気が漂うのも面白い。

続くMCでは、三味線の構造について解説。天神(ギターでいうヘッド部分)の裏にある「あずまさわり」が弦に微妙に触れることで三味線特有の倍音が得られ、独特の響きになるのを実演してみせたり、三味線の材料は糸(弦。琵琶湖のほとりに絹糸を紡ぐ工場がある)以外すべて輸入品であることなど。初心者にとっては、三味線ミュージアムをのぞいているようで興味深い。そして「津軽三味線を一人で演奏する時に、いちばん好きと言っても過言ではない曲です」と紹介して「秋田荷方節」を演奏。タメてゆっくり弾く部分、スピードを上げていっての渾身の速弾きと、緩急自在の撥さばき。そのエネルギーを受け取って、観客も思わず拍手する手に力が入る。魂のこもった素晴らしい演奏で、前半の三味線独演パートを見事にやりきった。

本編後半は、ゲストとコラボしてのセッション。まずは東京藝大の後輩である佐野幹仁(Per)を呼び込む。彼は大学祭で“ミス藝大、ミスター藝大”に輝いたこともある人気者で、超キャラの立った“自称イケメン”。この日も期待通り、登場するなり桃楠をイジったり、チャイムなどの飛び道具パーカッションを使った効果音で笑いを取ったり。彼がステージにいるだけで空気が和むのは何故だろう(笑)。そのままオリジナル曲「minimum」を演奏。スローテンポの謎めいたフレーズの掛け合い。そこから8ビートのアッパーなリフがスタート。二人でアイコンタクトを取りながらグルーヴを刻んでいくのだが、歯切れのいいリズムがすごい。三味線だけになった時の空ピッキングがはじき出すノリもスリリングだし、佐野がシェイカーやら拍子木やらで繰り出す変化の付け方もいい。テンポを落としたり速くしたりリズムはかなりフリーダムだが、二人の息が本当に合っていて、その阿吽の呼吸に思わず引き込まれてしまうのだ。これぞセッションの醍醐味。

そして、二人目のゲスト、内村勇希(key)が登場。桃楠はMCでウッチーこと内村を紹介した後、次の曲も紹介。「三味線Tokyoにはコンセプトカラーがあって、webサイトも僕の大好きな青。青にしたからには青っぽい曲も作りたいなと思って「BLUE SPEAR」という曲を書きました。ちょっとジャジーな感じの曲です。そしてもう一曲、僕の大好きな曲なんですけど「マイ・フェイバリット・シングス」。これは三味線がどうやったらカッコよくなるかなと考えてアレンジしました」と説明し、2曲続けて。「BLUE SPEAR」は、都会的なピアノのコードに三味線のフレーズが溶け合うAOR的なナンバー。端正なピアノの音と合わせると、三味線の響きはより躍動感が増して聞こえる。そして、そのままの勢いで「マイ・フェイバリット・シングス」になだれ込む。6拍子の怒濤のリフにのって、三味線、パーカッション、キーボードの3人が三つ巴。イントロからパワー全開だ。各自のミュージシャン魂も炸裂。3人のバトル的な場面、3つの音が寄り添い溶け合う場面、それぞれがリードを取る場面と、見せ場も次々展開されていく。

次のMCでは、年明け2月8日に南青山マンダラで2ndライブが決まったことを告知し、改めて“三味線Tokyo”プロジェクトについて説明。曰く、こういう他の楽器とコラボするようなスタイルは本場・津軽の方から見ると邪道であるため、本物ではないという意味で“東京三味線”と揶揄されたことがあったと。しかし、そこで敢えて「自分には自分にしか弾けない三味線があるのではないか」との思いで“三味線Tokyo”を標榜したのだと、このプロジェクト名に込めた決意を語った。そして「スタジオでセッションしてる時にできた曲です。クラゲが浮かんでいるようなイメージで」と次の曲を紹介し「浮遊セッション(仮)」を。ホワンとしたキーボードの音と、抑えたパーカッション。三味線のタッチもソフトで、敢えてアタックを効かせない感じというか、三味線がこんな表情を持っているとはちょっと驚き。“三味線Tokyo”の今後の可能性をいろいろ予感させてくれる。

本編ラスト曲は、ご存じ「スペイン」。’72年にチック・コリアが彼のバンドである“リターン・トゥ・フォーエヴァー”で発表したジャズ楽曲だ。世界中のミュージシャンがさまざまな楽器でカバーしている名曲で、日本では渡辺香津美やアル・ジャロウのバージョンもよく知られている。一度聴いたら忘れられないキャッチーさもありながら、複雑なキメやアドリブが続く難易度の高いナンバーでもある。が、この日の3人はむしろ楽しそうにフレーズをバシバシ決める。変則的なリズムやトリッキーなリフが満載のユニゾン部分も3人の息がぴったりだし、それぞれのソロ・パートも自由自在に伸び伸びと弾き倒していて、それはそれは観ていて気持ちが良かった。本人たちも会心のプレイができたのだろう、演奏の最後、やりきった感に満ちた爽やかな笑顔が印象的だった。

「スペイン」終了後は拍手が鳴り止まず、そのままアンコールに突入。岩田桃楠名義のライブとしては初めてとなるアンコールに、本人もちょっと感動ぎみ。佐野が「岩田桃楠、初アンコールおめでとうございます!」と茶化すと、桃楠も「これがアンコールというものですか!」と照れまじりにふざけてみせるが、本当にうれしそう。そして、テレビでアニメ「銀河鉄道999」を見たので、「星の曲を演奏したいなと思って」と、アンコールでは坂本九の「見上げてごらん夜の星を」を披露。温かみのあるエレピの音とシンプルなパーカッションをバックに、ボーカルのメロディーラインを三味線が奏でていく。ゆったりと歌うような演奏に観客全員が聴き入っていると、演奏は徐々に強さを増していき、最後のワンコーラスはテンポ、音量ともにアップ。ライブらしい明るく軽やかな高揚感で会場をひとつにまとめ上げた。

アンコール曲を含めて全10曲。約1時間という短い演奏時間ではあったが、岩田桃楠というアーティストおよび“三味線Tokyo”というプロジェクトの未来を大いに感じさせるライブであった。確かな演奏力に裏打ちされた音楽的なクオリティもさることながら、ジャズやポピュラー音楽との垣根を軽々と跳び越える自由な精神性、具体的な演奏面でのアプローチなど、耳の肥えたリスナーのハートもつかむ斬新な試みがあちこちに顔をのぞかせる。この実験室から新たなムーブメントが生まれていくのだろうか。この1stライブをスタート地点として、津軽三味線という楽器の魅力が今後どのように進化していくのか、期待とともに見守っていきたいと思う。

 

取材・文=舟見佳子

写真:Masa Noda/Shamisen Tokyo

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