「岩田桃楠 レコ発記念 3rdライブ」レポート

「岩田桃楠 レコ発記念 3rdライブ」

2019年4月13日@東京・赤坂Graffiti

 いくつかの意味で、これまでの2回のライブとは一線を画すエポックメイキングなライブであった。まず、彼はこの春に東京藝術大学を卒業。ついに学生という身分ではなくなったわけだが、晴れて社会人というか、純粋にプロの演奏家としての第一歩を踏み出したのがこの日のライブ。同時に、待望の1stアルバム『Shamisen Tokyo』を完成させ、そのリリース当日の発売記念ライブでもある。本来ならば上記2点だけで十分、大きな節目と言えるトピックなのだけれど、この3rdライブは当日を迎えてみたらさらに不測の事態が起きてしまった。前2回のライブとアルバム・レコーディングにも参加したサポート・メンバー内村(key)が体調不良により欠席。急きょピンチヒッターとして和久井サラ(pf、key)が参加することになったが、十分なリハの時間が取れなかったため、当日はほぼぶっつけ本番。やや不安な状況下でのライブとなったのだが、いざ始まってみたら逆にそれが吉と出た。何度も合わせていないことで、良い意味での緊張感が生まれ、ミュージシャン同士がガチで火花を散らすダイナミックな演奏となったのだ。万端ではなかったからこそ、桃楠の本領が引き出されたライブとでも言おうか。まだまだ底知れぬポテンシャルを秘めたアーティストなのだなぁと、彼の新たな一面を見せられた気がした。

 選曲的には、もちろんアルバム『Shamisen Tokyo』からの楽曲がメイン。オープニングはCDと同じく(ボーナストラックでもある)「Minimum」からスタート。歯切れの良い三味線とパーカッションがハイテンションなプレイを展開。レコーディングを経たせいか、佐野幹仁(per)との息もぴったりで、アイコンタクトを取りながらメリハリのきいた演奏で一気に会場の空気を盛り上げた。最初のMCでは「1stアルバムがやっと完成しました。自分の結晶ができたような…、宝物です」「いつもサポートしてもらってるピアノの内村くん、体調が悪くなってしまって、今日は強力なゲストを呼んでいます」と、近況などを報告しつつ和久井をステージに呼び込み、「浮遊」と「Blue Spear」を2曲続けて演奏。佐野と和久井はかねてより“MIKISARA”というユニットで活動しているので(桃楠も以前MIKISARAのライブにゲスト参加したことがある)相性の不安はなかったのだが、不安どころか和久井のピアノプレイが冴えまくっていて、既存の2曲がそれまでとは違うイメージで響いてきたのには驚いた。和久井はコードの当て方といいフレーズといいかなり攻めるタイプなので、それに呼応する形で桃楠の三味線も力強さを増す。元々「浮遊」も「Blue Spear」もどちらかというと大人っぽく落ち着いた楽曲だが、3人とも出るところと引くところのコントロールが鮮やかなので、これまでよりグッと華やかな印象に生まれ変わったように感じられた。

 4曲目からは佐野と和久井が退場し、桃楠一人がステージに残って“三味線SOLOコーナー”に突入。藝大を無事卒業したこと、学生という肩書きがなくなっていよいよ音楽家として活動していくのだと気持ちを新たにしたと語ってから、このソロコーナーで演奏する楽曲について解説。曰く「津軽民謡には五大民謡というものがあり、じょんから節、あいや節、おはら節、よされ節、三下がり。三味線には三つチューニングがあって、三の糸が少し下がっているのがこの三下がり」と、より楽曲への理解が深まる基礎知識も。曲の説明中に歌詞をど忘れして笑いを誘ったが、いざ「三下がり」を弾き始めるとキリッと引き締まった顔つきになる。さすがの集中力。続いて、近代最も有名で功績のあった津軽三味線奏者=高橋竹山を紹介。彼はオリジナル曲を作るのではなく、民謡をアレンジして三味線を付けるスタイルであったことを解説して、竹山の代表曲「津軽ワイハ節」「十三の砂山」「弥三郎節」を3曲続けて演奏。

 中盤は、これまた急きょ登板が決まった助っ人、まさんちゅこと中原正人との“三味線DUOコーナー”。急きょ決まったとはいえ、学生時代からの付き合いであり、昨夏のイタリア演奏旅行もこの2人で行っている。和やかなムードの中、桃響futariの1stアルバム収録曲「火開」をセルフカバー。津軽民謡である「ホーハイ節」を桃楠なりの解釈でアレンジした楽曲だが、全体的にアップ気味でノリの良いナンバー。桃楠によるテンション高めのバッキングに中原がメロを重ねたり、それを交代したり、阿吽の呼吸でアンサンブルを紡いでいく。続いて、前回のライブでも演奏された「星めぐり」を今回は三味線二丁アレンジで。前回はシンセのSFチックな音で聴かせた“未知との遭遇”フレーズを中原が三味線で弾き、そこへ桃楠がメロをポリリズム的な間合いで絡めていくのだが、よくある“和音バッキング+メロ”で音が混ざってしまうのではなくて、単音+単音がそれぞれ独立しつつ絡む感じが良い。風のざわめきを思わせる桃楠の繊細な撥さばきも素晴らしい。DUOコーナーの最後を飾ったのは、二人の三味線バトル。「六段」(じょんから節を合奏するための基本曲)→中原のソロ→桃楠のソロ→乱れ弾きという構成で演奏するという。「バトルなので、すごいと思ったところは拍手を」(桃楠)、「負けませんよ」(中原)と、拍手の数で勝負することになったが、これは超面白かった。イントロから早くも連打をかますなどジャブの応酬。ユニゾンのフレーズもバッチバチにガンを飛ばしながら(笑)。中原のソロは堅実さとワイルドさを兼ね備える音使い。一方、桃楠のソロは華麗かつたおやかで、2人のタイプの違いも際立つ。ハイポジションでの速弾きやトリル(かき回し)など見せ場ではそれぞれ大きな拍手が起こり、その度に相手をドヤ顔で見る表情が笑える。その後の乱れ弾きでは、相手の弾いたフレーズをすかさず弾き返したり、桃楠が「上を向いて歩こう」のメロディーを入れたり、絶妙な掛け合いや即興で会場を沸かせる。桃楠自身も「これは引き分けですかね」と言っていたが、両者見事な勝負っぷりであった。

 後半は再び佐野と和久井を呼び込み、トリオで。軽いインプロヴィゼーションからの「竹田の子守唄」、やはりこの3人になると音の厚みがすごい。圧巻だったのは「My Favorite Things」で、特にピアノの暴れ方が半端ない。テンションコードをバリバリ繰り出してくるし、鍵盤の上から下まで縦横無尽に駆け巡るフリーダムな演奏。当然、桃楠と佐野が黙っているわけはなく、彼らのミュージシャン魂も炸裂。誰かが攻めるところ、誰かが抑えるところ、そして3人が一丸となって突っ込んでいくところなど、曲が果てしなく広がっていく様がそれはそれは美しい。まるで音が踊ってる姿が視覚的に見えるようで、この瞬間に立ち会っている事に心からワクワクした。これぞライブの醍醐味、これぞケミカルリアクション。Shamisen Tokyoの1st CDにも入っている曲だけれど、同じ曲とは思えないほどメンバーやシチュエーションによって予想外のエネルギーが引き出される事って確かにあるのだ。

 アンコールでは「師匠から『三味線は七色の音が出るんだよ』と言われた言葉を大事にしている」と語り、ソロ演奏で「荷方節」を。気合いを込めて力強く発する音や、立ち止まって己を見つめるようなじっくりとした溜め、細やかにスピードを上げていく疾走感などなど、まさに“七色の音”を体現する多彩な演奏で三味線の表現を追求してみせた。

 レコ発ライブなのに事前アナウンスされていたレコーディングメンバーではないという事態となったものの、逆にピンチをチャンスに変える桃楠の底力を見る事ができたライブであり、駆けつけてくれた仲間たちとの信頼関係や愛も感じられたこの日のライブ。Shamisen Tokyoがテーマとしている三味線の可能性を“七色の音”という言葉で定義したことで、その世界観もより具体的にイメージできるようになった。今の岩田桃楠を取り巻くいろいろな物が見えたライブであった。

取材・文=舟見佳子

写真=野田雅之

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